2015年12月31日木曜日

展覧会回顧 2015

展覧会回顧 2015
はやいもので、今年も終わり。
昨年にならって、2015年に見た展覧会のうち、印象に残ったものをピックアップします。

染織系に偏っているのは、最近の関心の所在ゆえ。
ブロックバスター展がないのは、あまり見ていないから。
デザインに関心がありながら、デザイナー系、デザイン作品系が少ないのは、これも基本的に歴史的観点から見て評価できるものが少ないから。ただ、足は運んでいます。
というようなバイアスがある鑑賞歴であります。

1年間でいくつの美術館、博物館、ギャラリーを巡ったか、正確にはカウントしていないのですが、平均すると1日1箇所程度でしょうか。画廊、ギャラリーは1日に何軒も梯子しているので、毎日出かけているわけではないのですが。

—— 十選 ——

トッド・マクレラン 「THINGS COME APART」
Paul Smith SPACE GALLERY、2014/11/22〜2015/1/4


電話、タイプライター、カメラ、PC、時計、etc. を部品に分解し、ならべて写真に撮影したもの。言葉にすると簡単ですが、これはとても良い企画でした。

当然かも知れませんが、アナログな機械ほど部品の数が多くて複雑。タイプライターや、アコーディオンはすごい。対して、DVDプレーヤーなんてすごく単純。

McLellanとPaul Smithは時計でコラボ。Paul Smithの時計を分解して撮影した作品が展示されていました。

マクレランのサイト ☞ TODD MCLELLAN MOTION STILLS INC - • Things Come Apart

とてもよかったので作品集を買ったのですが、その後日本語版も出ています。

 

「分解してみました」って邦題はちょっと、ねえ。

時代と生きる -日本伝統染織技術の継承と発展-
文化学園服飾博物館、2014/12/17〜2015/2/14


型染、友禅、絞染、絣、紋織……。主に染めについて、技法の解説から、仕立てられた着物まで。
伝統的な染織技術の「変遷」を追う構成で、ほんとうに面白いです。手間がかかる絣や絞り染め。現代ではプリントによるニセモノがあふれていますが、明治〜大正期にも型染めによる模倣品があったとか、省力化の工夫があったとか。
ただ、「伝統技術を守る」という話ではなく、そもそもその「伝統技術」がどのように現れ、発展し、衰退しつつあるのかについても、そしてそれをどのように「近代化」するのかについても触れられている点がとてもよかったと思います。なにしろ、私たちが「伝統」と言っているものの大部分は、たかだか100年ほどの歴史しか持っていないのですから。

三木健
ギンザグラフィックギャラリー、2015/3/5〜2015/3/31


デザインとは制約の中における思考のプロセスなのだ。リンゴを題材としたさまざまなデザイン。デザイン教育に携わる人だけではなく、美術館のワークショップ担当の方にも参考になると思います。

三木さんの授業内容を紹介する講演映像。 ☞ http://youtu.be/I-5noogmZmo



ただ、この展覧会への評価にはちょっと留保があります。というのは、ここで取り上げられているのは、デザイン教育というよりは、造形教育と言った方が正確かも知れない点です。ここで提示されているのは、モノの見方とつくり方であって課題の発見と解決ではない。デザインにとって造形は必要条件だけれども、十分条件ではない。その点が示されていないのです。

小林路子の菌類画 きのこ・イロ・イロ
武蔵野市立吉祥寺美術館、2015/4/4〜2015/5/17


キノコには人を饒舌にさせる何かがあるのでしょうか。展示を見に来たおばさまたちのにぎやかなこと(笑)。そしておばさまたちのお喋りは「マツタケ」の画の前で最高潮に達するのです。展示解説もご本人によるもの。キノコ愛に満ちあふれた展覧会でした。 ☞ 小林路子――描いたきのこは800点超! きのこに魅せられた画家

 

宮川香山とアール・ヌーヴォー
ヤマザキマザック美術館、2015/4/25〜2015/8/30


宮川香山の作品のほとんどは眞葛ミュージアムからのもの。ですが、それに加えてガレやドーム兄弟、ヌーボーの家具、そしてゲテモノ陶器の元祖としてのパリッシーまで取り揃え、受容側のコンテクストに焦点を当てたすばらしい構成でした。



村野藤吾の建築──模型が語る豊饒な世界
目黒区美術館、2015/7/11〜2015/9/13


いやあ、早大文学部の建物も村野藤吾でしたか。恥ずかしながら知らなかった。あの建物にそんなにいい印象はなかったですねー(笑)。


衣服が語る戦争
文化学園服飾博物館、2015/6/10〜2015/8/31


明治から昭和終戦後まで、戦争との関わりから衣服を見る。衣服の変容から戦争を見る。歴史と事例を丁寧に追った内容。第2次世界大戦終結から70年、「戦争法案」が強行採決された日に見た、戦争のもうひとつの姿。

戦後70年──昭和の戦争と八王子
八王子市郷土資料館、2015/7/22〜2015/9/30


戦前から戦後復興期まで。銃後の暮らしを展示する企画は多いと思いますが、これは資料の物量がすごい。チラシポスター類、町内会の通達、さまざまな代用品や戦時の衣服、浅川地下壕につくられた中島飛行機の工場、八王子空襲等々。

きものモダニズム
泉屋博古館 分館、2015/9/26〜2015/11/1
2015/11/3〜2015/12/6


大正から昭和30年代くらいまでのモダンな意匠の銘仙の数々。お客さんには着物姿のおばさま、おねえさまがたくさん。おにいさんも。私はどちらかといえば技術的な部分に興味。



女子美染織コレクション展5 KATAZOME
女子美アートミュージアム、2015/11/14〜2015/12/20


型紙、小紋、紅型、芹沢銈介、柚木沙弥郎等々の型染、注染を用いた現代の染め物まで。思いがけずというか、期待通りというか、とてもすばらしい展覧会でした。型紙といえば、2012年に三菱一号館美術館で開催されたKatagami Style展が思い出されます。あちらは西洋でデザインのソースになった大振りの意匠の型紙が多かったように思いますが、こちらでは主として錐彫りによる超絶的に微細な文様が楽しめました。古い型紙は、旧鐘紡コレクション。

—— 番外編 ——

凡天太郎の宇宙
阿佐ヶ谷 ギャラリー白線、2015/8/8〜2015/8/30



川崎のぼる ~汗と涙と笑いと~ 展
三鷹市美術ギャラリー、2015/8/1〜2015/10/12



「スピード太郎」とその時代
~市民ミュージアム所蔵・宍戸左行遺品資料を中心に~
川崎市市民ミュージアム、2015/4/4〜2015/7/5



救いようのないエゴイスト 深瀬昌久 - MASAHISA FUKASE
DIESEL Art Gallery、2015/5/29〜2015/8/14



笹山直規+釣崎清隆 展覧会「IMPACT」
高円寺・素人の乱12号店「ナオ ナカムラ」、2015/12/13〜2015/12/20




—— そのほかいろいろ ——






















































—— 3大ガッカリ展 ——

「ガッカリ」というものは、得てしてそのものにはなんの責任もなく、たいがいこちらの期待値が高かったことと実際とのギャップによる印象を言います。なので、これらの「ガッカリ」も展覧会の企画者の瑕疵ではなく、もっと見たいものがあったのに、という鑑賞者側の勝手な希望と捉えて頂ければ。

オスカー・ニーマイヤー展 ブラジルの世界遺産をつくった男
東京都現代美術館、2015/7/18〜2015/10/12

いろいろと残念でしたね。
とくに建築模型は、目黒区美・村野藤吾の建築展の愛のあふれる作品の数々を見てしまっていたので、なんじゃこりゃーと思ってしまいました。
会場で上映されていた映画はとてもよかったです。もっとも展覧会のために作られたものではありませんが……。

動きのカガク
21_21 DESIGN SIGHT、2015/6/19〜2015/9/27

動きはあるけれども、カガクがありませんでした。
類似の内容ではICCの展示の方が充実していた分、物足りなかったです。

アート オブ ブルガリ  130年にわたるイタリアの美の至宝
東京国立博物館表慶館、2015/9/8〜2015/11/29

昨年同所で開催されたエルメスの展覧会が無料であったことを考えると、入場料1,400円は……。しかも、以前、類似の展覧会が入場無料で開催されていたことを考えると……。

2015年12月18日金曜日

大田区立郷土博物館:まちがやって来た
──大正・昭和 大田区のまちづくり




2015年10月25日〜12月13日
大田区立郷土博物館

展覧会あいさつから抜粋。

大田区は、現在71万人余の人口を数えます。しかし、明治末年から大正初期の人口は約6万人でした。農漁村の風景に満ちるこの地では、大正半ばから市街地作りが始まります。
今から約80年前の昭和7年(1932)には、荏原郡下の大森・入新井・馬込・池上・東調布・蒲田・矢口・羽田・六郷の9町村が、大東京市35区中の「大森区」「蒲田区」となり、同17年(1942)には61万人余が暮らすまちに変貌しています。
この短期間による劇的変化の背景と実態は何だったのでしょうか。今の大田区のまちの暮らしとどのように関係しているのでしょうか。

現在の大田区が人口約71万人。ということは、昭和17年と比べて、10万人程度しか増えていないことになります。ということは、戦前期に既に大田区の都市化はほぼ完了していたということになります。私の感覚では、戦後に人口が急増したのだろうと思っていましたので、けっこうびっくりです。びっくりしたので、大田区と、その周辺の人口の推移を調べてみました。ソースは『東京都統計年鑑』です。



折角ですので、現在東京23区で一番人口が多い世田谷区と、2番目に人口が多い練馬区、そして大田区の隣の品川区を一緒にプロットしてみました。

なお、展示パネルの解説と『東京都統計年鑑』の数値にはちょっと違いがありますが、そちらの出典は大田区史だそうです。

戦前期、大田区の人口は昭和19年にピークに達しており、約56.5万人です。世田谷区が同様の人口に到達したのは、戦後昭和30年代前半。練馬区は昭和55年頃のことです。グラフからは、大正期から昭和初期における大田区の急激な人口増がうかがわれます。

同じ昭和19年に世田谷区の人口は約30万人。練馬区単独のデータはないのですが、前後から推察すると10万人以下。現在23区の人口上位3つの区ですが、その都市化の歴史はずいぶんと違っていることがわかるでしょう。

昭和20年に人口が激減しているのは、戦争の影響です。徴兵、学徒動員、学童疎開などによって、このとき東京全体の人口が激減しました。戦前期の水準に回復したのは昭和30年ごろですね。戦後だけのグラフをつくると、高度成長と人口増と都市化がリンクしているように誤解されそうです。じっさい、世田谷や練馬はそうなのですから。

品川区をプロットしたのは、人口推移が大田区と似ているからです。面積が大田区の3分の1強なので絶対数は少ないのですが、グラフの動きがとてもよく似ていると思いませんか。大田区より都心に近いためか、大正期の人口増加は大田区に先行しているようです。

展覧会は、このような明治末・大正期から昭和初期の人口増の要因はなにか、その結果何が起きたのかを考察する内容でした。とても興味深かったですよ。

この人口推移に関する話は某所でも少し触れましたので、あれ、と思った方は、そういうことでご了承ください(笑)。

2015年12月16日水曜日

高橋明也『美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには』ちくま新書、2015年。




高橋明也『美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには』
ちくま新書、2015年。


メモランダム。

美術館や博物館に比較的よく足を運ぶ方だと思いますが、私は関係者でもなければ専門家でもありません。学芸課程を履修したこともないので、展覧会の裏側で関係者たちがどのような苦労をなされているのか、ほとんど知りません。

展覧会に行く理由は、展示されている作品を見ることが第一義です。どんな作品が出品されているのか、誰の作品なのか、何を見ることができるのかが、一番の関心です。

けれどもいくつもの展示に足を運んで、似た様な作家、作品、時代のものを繰り返し見る機会が増すにつれて、展示の構成の違い、組み合わせの違い、焦点の置きかたの違い、見せかたの違いといった面が気になり始めます。その違いの背景にどのような理由があるのか、気になり始めます。やがて作家、作品を見に行くだけではなく、「展覧会」を見に行くようになります。いや、作品そっちのけで、作品の配置構成やら、壁の色やら照明の具合やら、動線の配置、お客さんの入り具合が気になり始めます。

趣味関心がその直接的方面からその周辺へ、その裏側へと拡がることは、「美術展」に限らず、みなさん経験がおありでしょう。三菱一号館美術館の高橋明也館長が、自身の経験、周辺のできごと、業界裏話を書き下ろした本書は、美術展にあししげく通ううちにその舞台裏にも関心を持ち始めた人たち(私を含む)に、最適の一冊。三菱一号館美術館の展覧会を見に行ったことがある人ならば、より具体的に楽しめると思います。

目次から章タイトルを示しておきましょう。

1. 美術館のルーツを探ってみると……
2. 美術館の仕事、あれやこれや大変です!
3.はたして展覧会づくりの裏側は?
4. 美術作品を守るため、細心の注意を払います
5. 美術作品はつねにリスクにさらされている?
6. どうなる未来の美術館

惜しむらくは、本書を読んで「美術館の舞台裏」に関心を持った人たちがその裏側をさらに深く知るための文献ガイドがないこと。逆に言えばそれがないということは、本書のターゲットがどの方面を想定しているのか、想像されましょう。あそことか、あそことか、あそことか。

本書195頁に、SNSの可能性について書かれています。口コミ効果といった宣伝手段の側面もありますが、日本で展覧会批評が未熟であること、そうしたなかでSNSに投稿される展覧会の感想を通じて直接的に反響を知ることができることの有用性が指摘されています。それゆえに、高橋館長はPCの前に座り、日夜ネットでエゴサーチしているらしいですよ。
ふふふ。

  



2015年12月14日月曜日

女子美アートミュージアム:KATAZOME展



2015年11月14日〜12月20日
女子美アートミュージアム


型紙のコレクション、小紋、紅型、芹沢銈介、小島悳次郎、柚木沙弥郎等々の型染、注染を用いた現代の染め物まで。思いがけずというか、期待通りというか、とてもすばらしい展覧会でした。

型紙といえば、2012年に一号館美術館で開催されたKatagami Style展が思い出されます。あの時の展示の主題は、日本の型紙がヨーロッパのデザイン(ジャポニスム)に与えた影響でした。つまり、ヨーロッパ目線で選ばれた型紙。たしか大振りの意匠が多かったように思います。


KATAZOME展出品の型紙は、旧・鐘紡コレクション。主に錐彫りによる超絶的に微細な文様が楽しめます。

また、美術館ロビーでは、高橋英子名誉教授による伊勢型紙コレクションが展示されています。明治〜大正期の比較的新しいモノらしいですが、天井から吊されて展示されているもの以外にも膨大な量の型紙の束がテーブルにおかれており、めくって見るようになっています。とてもとても1時間やそこらでは見終わりません。会場はロビーのみ撮影可。

これは木目模様の型紙。こんな文様があるなんて。



そして、とてもモダンな文様。




↓こちら、文様の濃淡が網点のように小さな穴の大小と粗密で表現されています。防染糊をおいて染めるのではなく、染色糊で直接布を染めるのに使ったそうです。文様がネガになっているのは、ステンシルの要領で染めるからなのでしょう。



試しに、ネガポジ反転してみました。



主題は「型染」で、じっさい素敵な染めの作品が多数展示されているのですが、ついつい「型紙」ばかりに見入ってしまいます。あとで、追記しよう。

女子美の相模原キャンパスは果てしなく遠いのですが、企画展会場では本展のために誂えたというライトテーブルに並べられた型紙が見やすく美しく、この展覧会がどこにも巡回しないのがもったいない限りです。