2011年3月31日木曜日

杉野学園衣装博物館:ウォルトとドゥーセ



ウォルトとドゥーセ-オートクチュールからみた女性の装い-
2010年9月24日~2011年4月8日
杉野学園衣装博物館

プロダクト系の展覧会に行って展示品を見て、ああこれはどうやって使うのだろう、どういう仕組みになっているのだろう、と思ったことはありませんか。美術館におけるデザインの展示は、もっぱら表象としてのデザインに焦点が当てられることが多く、機能性など本来の用途が等閑にされることが少なくありません。一般の観覧者は消費の側面からモノを見ているのですからそれもよいかもしれませんが、モノをつくっている立場からするともっと深いところも知りたくなります。デザイナーの側から見た場合でも、思想の側面であって技術的な話はあまりありません。

現在杉野学園衣装博物館で開催されている「ウォルトとドゥーセ」展は、つくるという視点からドレスを見た、貴重な展覧会です。

展覧会の中心は、メゾン・ウォルトでつくられたイブニングドレスの復元。衣装博物館開館50周年を機会に行われたプロジェクトだそうです。


復元ドレス。報告書から。

プロジェクトの目的は、「デザイン、素材、パターン、構成、縫製方法などその時代が要求した服飾造形を総合的に調査研究し、可能な限り原資料に近似のドレスを復元制作すること」。「調査研究、復元にあたって、材料、染料等の素材分析、オリジナル資料の調査・復元、オリジナル資料の保存・展示に関して、多くの研究機関の研究者、専門家の方々のご協力をいただいた」そうです(現代衣装の原点を探る—ウォルト作品の復元:報告書PDF)。

この復元というのは、ただ見た目の再現ではありません。ドレスがどのようにつくられていたかを20世紀初頭のオリジナル資料=イブニングドレスから分析し、それに基づいて新たにドレスを作り上げるのです。その視点は科学史、技術史と共通する部分があります。たとえば、ある発明が人びとにどのような影響を与えたのかを考察することも大事ですが、なぜ発明されたのか、どのようにつくられたのか、何が新しかったのかを考えることも大切なことではないでしょうか。モノはつくられなければ存在しませんし、人びとの手に渡らなければ、影響を与えることもありません。ウォルトのイブニングドレス復元プロジェクトと今回の展覧会は一般受けはしないかも知れませんが、モノの歴史に対するアプローチの重要な方法のひとつでしょう。

問題があるとすれば、そのモノに対する深い知識がなければならない点。自ら縫い上げる技量がなければ、そもそも復元のための調査すら難しいのではないでしょうか。

報告書(iii頁)によれば、今回のプロジェクトの研究経費は3年間で3500万円。この中にはドレスの復元だけではなく、オリジナル資料の保存、復元資料の展示、研究成果を公表するためのウェブサイトの構築なども含まれています。とはいえ、同様のプロジェクトを簡単に行えるような金額ではありませんね。


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建物も素敵。


| meguro | mar. 2011 |

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