2010年4月11日日曜日

「パリに咲いた古伊万里の華」展:陶磁器における史料研究

昨年末に東京都庭園美術館で開催されていた「パリに咲いた古伊万里の華」展を再訪しようと考えていたのだけれども、結局のところ出かけずに終わってしまった。


九州国立博物館での巡回展が始まったようだ。


九州国立博物館 | 日本磁器ヨーロッパ輸出350周年記念 特別展『パリに咲いた古伊万里の華』
2010年4月6日~6月13日
福岡:九州国立博物館
http://www.kyuhaku.jp/exhibition/exhibition_s19.html

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もう一度行こうと思った理由は、展覧会関連の講演会に行きたかったから。講演会は有料なのだけれども、そのかわり同額の展覧会チケットが付いてくるということだった。で、行かなかった理由は、講演会の抽選申込みに外れてしまったから。残念。

聞きたかったのは、武蔵野美術大学講師である櫻庭美咲(さくらばみき)氏の講演、「ヨーロッパ王侯貴族の宮殿を飾る古伊万里」。レポートが庭園美術館実習生氏のウェブログに掲載されている。


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櫻庭氏の専門は日本製磁器輸出の研究。現在は医療製品に焦点を絞って研究をされている。文献をいくつか調べてみた。

櫻庭美咲「オランダ東インド会社文書における肥前磁器貿易史料の基礎的研究-1650年代の史料にみる医療製品取引とヨーロッパ陶磁器の影響」『武蔵野美術大学研究紀要』33号、2002年、91~103頁。

櫻庭美咲/藤原友子「日蘭貿易における陶磁史料の研究―肥前磁器製医療製品を中心に―」『鹿島美術研究年報』第19号、別冊、2002年、371~387頁。

櫻庭美咲「オランダ東インド会社日本商館文書における肥前磁器貿易史料 : 一六五〇~七〇年代の医療製品取引に関する史料研究の再考」『東京大学史料編纂所研究紀要』第16号、2006年、36~49頁。

櫻庭美咲「オランダ東インド会社文書にみる17世紀肥前磁器輸出の史料分析―バタヴィア=アジア域内の流通を中心に」『九州産業大学柿右衛門様式陶芸研究センター論集』2007年3月、173~190頁。

その方法は、櫻庭氏によれば次の通りである。

現在、わが国における輸出向け肥前磁器研究は、作品を考古学的方法論で歴史的に位置づけてゆく編年研究に重点がおかれている。国内のみならずヨーロッパや中近東、アジアなどに点在する数多くの製品の所在が把握され、次いで有田を中心とする生産地や、ヨーロッパの年や東インド会社の支部の跡地など消費地における発掘調査の成果に基づく制作年代の検討がおこなわれてきた。なお、こうした編年研究には、その実証性を側面から裏づけるため「東インド会社文書」の活用が不可欠であり、その重要性が周知されている。しかし、同文書はオランダ語の古語により量も膨大であるため埋蔵史料の宝庫となり、多くが未発表のままのこされていた。
(櫻庭美咲「オランダ東インド会社文書における肥前磁器貿易史料の基礎的研究-1650年代の史料にみる医療製品取引とヨーロッパ陶磁器の影響」『武蔵野美術大学研究紀要』33号、2002年、92頁。)

このような研究状況に対して、櫻庭氏は東京大学史料編纂所所蔵のオランダ東インド会社日本商館文書のマイクロフィルムを史料として、製品や制作年代の同定を試みている。このような方法による陶磁器研究はこれまで日本の陶磁器研究者によっては行われていなかったことゆえ、非常に貴重であり、その成果が期待される。

ただし、文書史料に現れる製品の名称をじっさいの製品と一致させるのはなかなか困難な作業と思われる。器形、絵付のヴァリエーションまで製品送状に詳細に記入されるとは考えにくいからである。そのような問題もあるゆえ、今後この文書研究が既存の考古学的方法による成果とどのように結びつけられるのか非常に興味深い。

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マイセンやセーヴルなどヨーロッパ名窯の華麗なやきもの。これらは、実は17世紀にもたらされて、宝石にも譬えられ、王侯貴族から熱狂的に迎えられた中国や日本からの輸入磁器への強い憧れから生まれたものだった。ロココ芸術の爛熟期にあった18世紀のヨーロッパ宮廷文化で、大きく花開いたこれらの宮廷陶磁を一堂に会し、名窯ごとの秘められた物語と名品の数々を紹介。その美の魅力と歴史を説く初の入門書。

ヨーロッパの名窯を紹介する本は他にも多くあるが、本書の特に第I部「東洋磁器への憧れと宮廷文化」は、ヨーロッパにおける磁器誕生の前史を分かりやすくまとめていて、すばらしい。ヨーロッパ陶磁の権威前田正明先生が共著者。武蔵美出身の櫻庭氏は前田先生のお弟子さんなのだ。入門書には珍しく文献目録も付いていて、とても参考になります。

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