2009年10月27日火曜日

21_21:「THE OUTLINE 見えていない輪郭」展

21_21の展覧会に行くたびに年間メンバーシップになるかどうか迷う。年4回訪れるならペイするのだが、果たしてどうだろう。さんざん迷ったあげく、100円割引券があったのでそれを利用することにして今回も見送ってしまった。

「THE OUTLINE 見えていない輪郭」展は、深澤直人氏のプロダクト+藤井保氏による写真。



21_21 DESIGN SIGHT-「THE OUTLINE 見えていない輪郭」展
http://www.2121designsight.jp/outline/index.html

「骨」展、そして「SENSEWARE」展と、このところ21_21の展覧会はどちらかといえば実験的、動的な展示が続いたが、今回の展覧会は非常にスタティックであったように思う。その理由は、もちろん深澤プロダクトの完成度――収まるべきところにきちんと収まったカタチ――にもあるが、展示されているプロダクトがすでに世に出たものであること、写真――ある特定の時間と場を切り取ったもの――のふたつが主役のせいでもある。

ふたつが主役と書いたが、この展覧会では、プロダクトと写真、どちらが主なのか。ポスターに写真が使われているから写真が主役なのか。

展覧会というのはエディトリアルである。あるいは演出である。場合によっては秩序も関連もないかも知れないものを、あるひとつの視点でまとめ上げ、提示する作業である。芝居の舞台に演出家が出てこないように、ふつうの展覧会ではこの作業はあまり表に出てこないので、我々はただ役者たる作品を鑑賞している気分になるが、じっさいには丹念な作業を経て編集/演出されたストーリーのもとでモノを見ている。しかし、今回の展覧会では編集/演出という行為それ自体が作品として展示されている。「見えていない輪郭」という視点を提示する藤井保氏の写真を通じて、プロダクトを見るしかけだ。

ここでの「輪郭」は平面図のそれではない。それらのプロダクトに接している日々、さまざまな角度から目に映る、その姿を形づくる立体的、空間的な輪郭である。家具、家電、日用品の多くは、色彩や、素材や、機能の側面が記号として意識に入ってくるが、視角に捉えられる一瞬、一瞬のカタチ、輪郭――すなわち美しさの理由――は、なかなか意識に上らない。藤井氏の写真は、その意識に上らない=見えていない輪郭を、浮かび上がらせるガイドなのだと思う。だから、舞台のアナロジーで言うならば、藤井氏の写真は演出であり、主役はやはりプロダクト、ということになろうか。もちろん、私たちは「演出された役者」を見るのだから、そのどちらが主というものではない。

比較的小さなプロダクトは、照明を入れた乳白色アクリルの上に展示されている。逆光になるので、プロダクトを見せるにはあまりいい展示ではないと最初は思ったのだが、これもじつは「輪郭」を見せるための演出なのだと思う。写真は特定の位置からの静的な視角を提示する。そして実際のプロダクトの展示は、見る者が視点を移動させることで、さまざまな「輪郭」を見せる。

会場の構成もよかった。高い天井、無機質で静謐な空間が個々のプロダクトの輪郭を際だたせていると思う。訪れるなら、なるべく人が少ない時間帯を狙うのがよい。混雑すると「展示会」になってしまう危うさがある。

展示されている椅子の一部は実際に腰を掛けることができる。キッチンユニットにも触れることができる。だから、携帯電話やボールペンなどのプロダクトも、手に取ってみることができればよかった。

今回の展示を見て、私たちのまわりには「見えていない輪郭」がたくさんあると思った。同じ方法で、たとえば100円ショップのプロダクトの輪郭を捉えてみても面白いのではないか。

帰ってきて、展覧会の印象を反芻していたらもう一度見に行きたくなった。だから年間メンバーシップを購入しておくべきだったのだよ。


| 21_21 | oct. 2009 |

世界のフカサワも登場する「objectified」、日本語版DVDの発売が待たれます。

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